<抄録>
う蝕の洪水と言われた高度経済成長期以降の半世紀の間に、子どもたちの口の問題はう蝕から顎の発育不全や歯並びなどの形態、さらに咀嚼、嚥下、発音、呼吸、頭位(姿勢)などの機能に関するものに移行してきました。我々矯正歯科医が診なければならない不正咬合においては、口腔機能の異常を伴う難症例が多く見られます。
日本の3歳児健康診査における咬合異常を有する者の割合は12.3%(平成27年度)ですが、診査者と診断基準を統一した学術論文では4050%とされています。また噛めない子については、1986年の全国4,935施設の保育園の調査ではその割合が1.7%であったのに対し、平成7年度の乳幼児栄養調査では2~4歳児の約3分の1に咀嚼のトラブルが見られたとされています。食品による窒息事故が起こるたびに行政から保育施設へ通達が出され、幼児に食べさせてはいけない食品の数も増えています。すなわち健常児として産まれた子どもたちの3歳までの成長過程で、咀嚼器官の発育不全が顕在化していると言ってもおかしくない状況にあります。
子どもの摂食機能は哺乳期、離乳期を通して著しく発達しますが、その要となる哺乳期の母乳育児率は高度経済成長期以降50%を下回り、平成27年度にやっと増加に転じたものの3か月で54.7%しかありません。離乳期の食事は昭和33年の「離乳の基本」以降、栄養素、カロリー、消化効率が重要視され続けてきました。これまでの育児法が適切なものであれば、噛めない子が増えたり、かつて幼児が食べていた食品が危険な物になったりするでしょうか。
 本講演では、保育の現場で得られた噛めない子に関するデータをもとに食べられない子どもたちの現状を解説し、また7か月から3歳までの乳幼児健康診査において摂取食品のコホート調査で得られたデータをもとに、3歳で平均的な食品を食べられる子どもたちが離乳期にどのように食品を摂取していたかを解説し、エビデンスに基づいた乳幼児の食支援についてお話させていただきたいと思います

<ご経歴>
1988  長崎大学歯学部卒業
              鹿児島大学大学院歯学研究科博士糧
1992  鹿児島大学歯学部附属病院助手
1995  四元歯科勤務
2001  よつもと矯正歯科開設
 
<関連文献>
・四元みか,伊藤学而.食生活指導により咀嚼機能を獲得した噛めない(ちゅぱ食べ)子の報告.小児保健かごしま 20092220-21.
・伊藤学而,四元みか.矯正歯科医からの食育の提案.小児保健かごしま20092224-32.
・四元みか,伊藤学而.おっぱい顔コレクション2009.日本顔学会誌 20099(1)235.
・四元みか,奥 猛志,川越佳昭,他.鹿児島県内幼 稚園・保育園における-噛めない子,飲み込めない子-の実態について.小児保健かごしま 2011246-7.
・四元みか,川越佳昭.固形食移行期における20食品の摂取状況についての縦断的調査~鹿児島県の一地方自治体における7か月児健診から3歳児健診までのアンケート調査~.小児保健研究 20185050-60
・四元みか,石田房枝他.小児の口腔機能発達に関する調査(第1報)-口を使う運動機 能の獲得年齢-.日本小児歯科学雑誌 202058247